PS5で考える、家庭用ゲーム機のハード開発から発売に至るまでの難しさ

新しい世代の家庭用ゲーム機PlayStation 5と
Xbox Series Xが発売されました。
近年の家庭用ゲーム機のローンチは、
リリースすれば一瞬で市場から消滅するほど需要が圧倒的に高いです。
そのため、
「どれだけ迅速にハードとソフト開発を行い、
1日でも早く生産を開始して、
どれだけ多くのハードを用意できたのか?」という、
プラットフォーマーとしての総合力が問われる
ゲーム業界にとって一大イベントとなっているそうです。

ソニーにとっては携帯ゲーム機やPS VRまで含めると
8回目となる大がかりなハードローンチですが、
今回も世界中で仁義なき最新ハードの争奪戦に悩まされています。
北米では早い者勝ちの直接予約が行われたことで
一瞬で予約受付が終了したばかりか、
いくつかのショップで受注数をはるかに上回る自体が発生し、
初回以降の予約も同時に埋まるケースや、
一方的にキャンセルが行われる事例もあったようです。
そうした混乱を受けてPlayStation公式Twitterアカウントから
ユーザーに向けての謝罪も行われています。

日本ではAmazonを除くほぼすべてのショップで抽選販売が行われています。
北米の惨状を見れば、
抽選販売が最もベターな方法だと思います。
しかし、
抽選結果が出始めた頃合いで、
多くのPS5がオークションサイトに出品されたことを受けて、
人海戦術を得意とする転売業者に有利な方法で販売したと感じた
国内ユーザーからの批判の声が、
SNSやPlayStation.BlogのPS5関連記事のコメントにて多くなっています。

そもそも十分なPS5を用意できていないため、
本当に欲しいユーザーに対して十分に行き渡ることはありませんでした。
そして業者による転売が横行していることは、
日本はもとより海外でも問題となっています。

画像は2020年11月16日時点のオークションサイトebayのキャプチャー。

実際にどの程度の割合で業者に流れているのかは不明ですが、
その大半が転売に流れている印象になっていることも、
批判の声を強くしています。
そのため、
「ゲーマーを選別できるPS Storeで販売したらどうか?」
といった声も聞こえます。
しかし、
話はそう単純ではないし、
筆者はその方式に反対します。

前置きがかなり長くなってしまいましたが、
なぜ反対するのかを語る前に
販売だけでもさまざまな問題を抱える家庭用ゲーム機のローンチについて、
開発、生産、販売の3つの視点から考察し、
それぞれの問題を洗い出します。
そしてローンチの難しさや問題点をまとめたうえで、
PS Storeで販売するユーザーを選別することにたいして、
なぜ反対すのかも語ります。

ひとつのプラットフォームを形にするまでの流れ

「そもそもの話、
ハード開発がもう少し早ければ製造にも余裕が生まれて、
多少はローンチの混乱を緩和できるのではないか?」
と考える人もいると思いますが、
それはかなり難しいです。
次世代機の開発は、
ハードの基礎設計の開発と同時に、
どういったゲーム体験の提供を目指すのかの方向性を考え、
コストを含めて実現可能かを検証する必要もあります。

PS5の開発期間はおよそ5年です。
PS4も2013年のAV Watchに掲載されたインタビューにてSIEの吉田修平が
「PS4の設計は5年前、2008年から開始した」
と語っています。

ハードウェアの仕様や基本設計を形にすることで、
ようやくOSの最終仕様も確定できます。
PS5のUIの基礎デザインやシステムの仕様などは、
PS4のOSをベースにできるとはいえ、
PS StoreをOSに融合し、
メディア(ビデオストリーミング)用の別カテゴリーを作り、
ゲームコンテンツのアクティビティの導入など、
OSのサービス仕様はPS4と大きく異なっています。
これだけの仕様の変更や新機能を目指しながら、
システムが安定動作をするまでの道のりは、
かなりチャレンジングだったことでしょう。

PS5はほぼすべてのPS4タイトルをプレイできますが、
GameSpotによる発売前の比較動画ではPS4タイトルの読み込みは遅かったものの、
ファンによるDay1パッチ適用後のファンの検証で高速化が確認されました。

そうしたハードとOSがある程度形になることで、
ようやくソフトウェアが開発できます。
ソニーが行うべきソフトウェア開発のポイントは2つ。

ひとつはPS5の特徴でもあるDualSenseや3Dサウンドを使い、
PS5でどのようなゲーム未来を描こうとしているのか、
限られた時間の中で形にすることです。
それはPS5にプリインストールされた
『ASTRO’s PLAYROOM』でうまく示されたと思います。
ゲーム内で岩を握り、
握りしめると岩を砕いてしまう、
アダプティブトリガーを使った力の抵抗と解放を使った表現が
とてもよくできていました。

もうひとつは、
プロモーションとして最もアピールしやすいのが
グラフィックの進化をアピールすることです。
『Demon’s Souls』や
『Marvel’s Spider-Man: Miles Morales』といった、
旧ハードをベースにしたマルチタイトルは、
新鮮味という意味で面白みに欠けるものの、
ローンチにおけるハードの進化を示すうえではもってこいの題材でしょう。

いざローンチタイトルを開発するにあたり、
その多くはハードの完成前からの開発スタートになると思います。
そこで、
ハードの最終スペックを見極めるのがとても重要で、
見誤るとゲームパフォーマンスや
発売スケジュールに大きな影響を与えてしまいます。
その例が、
ローンチに発売された『Demon’s Souls』と、
ローンチ予定でしたが発売を延期して、
フリープレイとして提供されることになった
『デストラクション オールスターズ』でしょう。

当初『Demon’s Souls』は、
SIE公式サイトにてレイトレーシングの実装をアナウンスしていました。
ですが、
実際には実装されることはありませんでした。
設計段階でレイトレーシングの実装を予定した(と思われます)が、
レイトレーシングを実装するとゲームパフォーマンスを保てなくなった、
あるいは開発期間の問題というのが実情だと思われます。

『Demon’s Souls』はレイトレーシングを実装しなくても
クオリティはとても高く、
PS3版からのファンでなくても、
興奮させるのに十分なパフォーマンスを示したと思います。
しかし、
現状のクオリティに加えてレイトレーシングを実現していたら、
プロモーションでさらなるPS5のアピールポイントとなっていたでしょう。

画像はインターネットアーカイブ上のPlayStation.Blogをキャプチャーしたもの。
『Demon’s Souls』の紹介文で、この頃は、レイトレーシングの実装が紹介されていました。
現在はこの記述はありません。

無事、
PS5のパフォーマンスを示すタイトルとして完成したのが
『Marvel’s Spider-Man: Miles Morales』でしょう。
『Marvel’s Spider-Man: Miles Morales』の開発者は
ハードウェアの「上っ面をなでた」だけだと発言していますが、
オープニングの簡単な比較だけでも、
クオリティが大きく向上していることを確認できます。
特にレイトレーシングによるグラフィックの変化は大きいもので、
ソニーも発売前に積極的にグラフィックの進化をアピールし、
それによるユーザーの反応も、
とても大きなものだったように思えます。

以上のように、
次世代機の開発の流れからプロモーションに至るまで、
すべてがつながっています。
必然的にそのスケジュールもタイトになりやすく、
開発のペースを上げる余地はほとんどないでしょう。
そしてよく考えて見てください。
最近の大型タイトルは、
開発期間に4年5年と費やすことは決して珍しいことではありません。
PS5が構想から5年をかけたことを考えると、
むしろ賞賛するべきローンチにも思えます。

製造面でやれることは、現実的に難しい

ハードの生産時期を早くするのは難しいので、
逆に販売時期を遅らせるのはどうでしょうか?
ですが、
最も重要なタイトル販売のことも考えると、
市場が最も活発になる11~12月のタイミングは
可能な限り逃すわけにはいきません。
そのため2020年11月12日という発売は、
これ以上遅くできないギリギリの選択だったに違いありません。

では生産数を上げるのはどうでしょうか?
増産したくても心臓部であるAPUを筆頭に、
いちどに調達できる部品の数には上限があるはずなので、
やはり限界があります。
膨大なコストをかけて設備投資を行えば、
部品調達や生産数を引き上げることも可能でしょうが、
現実的ではありません。
ある程度売り切ってしまうとほぼ確実に過剰投資になりますし、
生産数が増えたからといって、
プラットフォームをクローズドするまでの
最終的な販売台数が同じように増えるとは考えづらいです。

結局のところ、
少しでもユーザーの不満を解消するためには、
販売方法を工夫するしかありません。
最も確実に必要とするゲーマーに届けようとするのであれば、
PS Storeの利用履歴が一定数以上ある人に限定して
販売するのが現実的でしょう。

PS Storeで選別するのが一見良さそうに思えますが……。
画像はPS Storeのキャプチャー。

ユーザーを選別すれば、
ハードをゲーマーに届けることは容易でしょうし、
コアなゲーマーほどソフトも一緒に購入するため、
全体の売り上げも伸びることでしょう。
しかし、
PS Store会員による選別はいくつかのデメリットが存在するため、
筆者はこの方法に反対です。

この方法のいちばんの問題は、
中長期的に小売り業者に大きな打撃を与える可能性が高いことです。
たとえば、
PS Storeで年5000円程度の利用履歴があれば
抽選対象とするとアナウンスしたらどうでしょうか?
たとえ5000円というわずかな金額で抽選対象になったとしても、
具体的な抽選方法までは外部から確認することができません。
そのため、
「もしかしたらPS Storeでの利用金額が多ければ多いほど
抽選確率が上がるのでは?」とか
「何か当選確率が上がるための条件があるのではないか?」
といった考えが生まれて、
PS Storeを積極的に利用しようというユーザー心理が働いても
不思議はありません。

これでは小売りが先細り大きな影響をあたえることが十分考えられます。
確かに、
時代の流れとともにデジタル版の利用率は上昇傾向にあります。
かく言う筆者も、
PS5のモデルの違いによるメリット・デメリットを考えたコラムにおいて、
将来的な利便性などの観点からデジタル版も全然アリだと推奨しています。

PlayStation 5デジタル・エディション

しかし、
ソフトウェアは決してデジタル版だけではありません。
今もパッケージ版を必要とする人は多いですし、
ユーザーの購買意欲を動かすために
多種多様な限定版がパッケージとして生み出されていますが、
その販売にも小売りが必要不可欠です。
そしてハードの販売にも小売り業界は必要不可欠です。
そのため、
プラットフォーマー自らが、
デジタル版の普及を急加速させるような取り組みを
やるべきではないと筆者は考えます。
ゲームを購入するユーザーと同じように、
ゲーム業界を支えしている小売り業界を無碍にはできないはずです。

それ以前に、
ハードローンチという一大イベントで
販売対象を制限する閉鎖的な販売方法自体にも問題があります。
多種多様なメディアへの露出も含めて、
ローンチは最も多くの人目に映る一大イベントです。
それは同時に、
プラットフォームの裾野を最も広げやすいタイミングでもあります。
ローンチで最新ハードを購入するユーザー層の大半は
コアなゲーマーでしょう。
だからといって、
ライトユーザーを最初のイベントで弾くわけにはいきません。
将来的な裾野の広がりを考えれば、
たとえ短期的にわずかな効果しかなかったとしても
幅広いユーザーに訴えかける必要があるからです。

考えつく先は、
各オークションサイトに出品制限を
一定期間設けてもらうしかないという部分に着地してしまいますが、
すべてのオークションサイトに足並みをそろえてもらうのも難しそうです……。

唯一の希望は国内もローンチを果たしたこと

こうした話は、
ローンチにおける一部分に過ぎません。
ハードの仕様や方向性を考えるだけでも膨大な検討や試作が行われ、
転売についてもSIEの議題には上がっているでしょう。
PS3やPS4、
PS VRなど、
これまで行われてきた早い者勝ちの直接予約は、
アクセスが殺到することでカートに入れることすらできず、
競争のスタート地点に立つことすら難しいことが多かったです。
それは転売業者による人海戦術の影響も多少あったと思うので、
個人的に抽選予約は、
一定の業者対策も考えてのことなのではと感じていました。

ひとつ希望があるとすれば、
PS5では、
PS4のときよりも日本での展開が重要視されている点です。
思い出してください、
PS4は世界より約3カ月遅れのローンチになったことを。
あのときの絶望感はかなりのものでしたが、
今回は日本も無事世界ローンチの仲間入りを果たしています。

もちろん、
PS4のローンチは、
確保できるハードの台数やローンチタイトルの開発に、
当時国内まだ元気のあったVitaを含めた戦略も考えれば、
単純に日本を軽視していたとは言いがたいです。
それでも世界同時ローンチであるかどうかは、
どのような理由があったとしても比較にならないほど重要に思います。
結果、
PS4のローンチのときよりも
日本に割り当てられたハードの数は大幅に減少しました。
ファミ通の集計によるとPS4は2日間で32万2083台を販売したのに対して、
PS5は4日間で11.8万台の販売にとどまりました。
入手するための競争の激しさはかなりのものですが、
それでもPS4のときのように3カ月も待たされるよりは絶対にマシです。

PS5の約12万台という数は想像していたものよりやや少ないですが、
世界同時ローンチであることを考えると、
ハードがある程度絞られるのは致し方ないでしょう。
PS4発売当時、
個人的にゲームブログを書いていた際に残していたログからになりますが、
メディアクリエイトが当時公開したPS4の国内発売から2週目となる
2014年2月24日~3月2日のPS4の販売台数は6万5685台でした。
PS5の場合は販売方法が特殊なため同じような考え方はできませんが、
PS5の2次出荷全体(週間ではない)では
8~10万台規模ぐらいになるのが妥当なところでしょう。
国内需要が満たされるのには時間がかかりそうで、
もうしばらく抽選販売が続くことになりそうです。

努力次第で入手できる可能性があるのは、
早い者勝ちの直接販売を行うAmazonぐらいなのですが、
何にせよ本体確保の道のりは厳しそうです。

2020年11月19日8:26時点のAmazonゲームの売れ筋ランキングをキャプチャーした画像。

少なくとも1~2カ月は同じ状況が続くことが予想されますが、
1日でも早く必要とする人々の元にPS5が届くことを祈るばかりです。

引用元:https://jp.ign.com/ps5/48490/feature/ps5

まとめ

この記事に書いてあるとおり、
『PS5』の入手には時間と運が必要になりそうですね・・・
とにかく言えることは、
SONYさん素晴らしいゲーム機を開発してくれて、
ありがとうございます!

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